借りぐらしのアリエッティ

 人家の床下にすむ小人達は、生活に必要な物を少しずつ「借りて」暮らしている。そんな彼らの掟は「人間に見つかってはいけない」―。
 のっけから私が疑問に思ったこと、それは。「こいつら借りてるんじゃなくて、人の物を盗んでるんじゃないの?!」です。だって、借りた以上は返さないといけないのですよ。でも小人達は返さないのです。泥棒呼ばわりされても無理はない。例の掟も、盗んでいるという自覚が多少なりともあるからこそではないか? というのは穿った見方でしょうか。(以下ネタバレあり)
 とは言えそこはジブリ作品(笑)、アリエッティの初めての「借り」シーンをアドベンチャー映画のように楽しく魅せてくれます。小人目線で見る家の中は何もかも大きく、戸棚から床に降りるのも大仕事。様々な道具を駆使して家の中を自在に動き回る、アリエッティのお父さんのカッコよさときたら! 小人たちにとって、「初めての借り」とは一種のイニシエーションなのかもしれません。でもこれって「借り」じゃなくて「狩り」だよなぁ(笑)。
 小人たち、あれだけ技術があるのだから、巧いこと人間と交渉をして、繕い物や家の修理をしたりして、それで家賃代りにするとかできないのかなぁ。あの暮らしじゃどこに行ってもいずれは破たんするのが目に見えているのだけど……。
 アリエッティを見つけてしまったのは、心臓の手術を間近に控えた少年・翔。彼女に向って「君たちは滅びゆく種族なんだよ」と言い放ったりして、何やら暗いものを抱えております。孤独な彼はアリエッティを喜ばせたくて、ドールハウスのキッチンをプレゼントしたりしますが、小人達にとってはいい迷惑。結局彼らは引っ越しすることに。
 しかし、そこに好奇心旺盛な家政婦のハルさんが乱入。小人達に対して好意的な翔とおばさまとは反対に、彼女は床下の連中を「泥棒小人」と呼んではばかりません。害虫駆除業者を呼んで、小人たちをそうとは知らせずに捕獲を依頼。まぁ、彼女にとっては職場から備品をかすめ取られてるわけですからね……。
 またこのハルさんが強烈なキャラなのですよ……。小人を探し、アリエッティの母を捕獲するシーンは、まるで小さな子供が虫を捕まえて遊ぶかのよう。泣き叫ぶ彼女を瓶に入れてラップをし、空気穴を入れて隠してしまうなんて……この子供のような残酷な無邪気さを持ったまま年を重ねてしまったハルさんが、私は怖くてたまらなかった。あの「みぃつけた」のシーンはトラウマになりそうです(苦笑)。
 アリエッティの母が捕まった理由は、夫に忠告されたのにもかかわらず、ドールハウスのポットを手放すのが惜しくなったから。くどいようだけどそれ盗みだから(汗)。
 危機も脱し、新しい仲間のスピナーとともに川を下るアリエッティ一家。スピナーの方はどう見てもアリエッティに惚れちゃってますが、彼女の方は気付いていないみたい。この先進展があるんでしょうか。頑張れスピナー(笑)。
 お話としては、少年が養生先で小人に出会って別れて――というただそれだけのことなんですよね。でも体の小さな小人目線で世界を見ていたせいか、そのささやかな物語が一大スペクタクルのように錯覚されていました。鑑賞直後はジーンとして目に涙まで浮かべてしまいましたが、後で冷静になると「あ、あれ……?」と首をかしげることに。
 もっと、色々事件があっても良かったんですよね。アリエッティの母を助ける最中に翔の具合が悪くなるとか、彼の入院先にアリエッティがついていっちゃうとか(笑)。あえてそうせずに、孤独な少年と小人の少女の出会いと別れを淡々と描いた。これはこれで好きなのですが、これまでのジブリ作品を知っている身としては、少し物足りなさを感じたのも事実です。