ザ・コーヴ

 一時は上映中止とまで言われていた問題の作品ですが、幸いにも私の地区では無事に鑑賞することができました。
 簡単にいえば、エンターテイメントとしてよくできたドキュメンタリー映画だと思います。イルカの虐殺を防がねば! そしてこの現状を世界中に知らしめねば! という「正義感」、そして仲間を募る「過程」、スパイ大作戦か007並みに機材をそろえ警備の目をかいくぐって隠しカメラを設置する「アクション」。面白くならないはずがありません(苦笑)。しかし――。(以下、かなり感情的な意見が続きますので注意!)
 しかし、見終えた直後には反感しか覚えませんでした。「自分たちが絶対正しい! 日本人はおかしい!」という思惑が見え見えだから。そりゃ、あれだけ正義感を振りかざして我が物顔で撮影していたら、町の人の反感を買うでしょう……。警察の人達だって暴力的なことは何もしていない。丁重に「立ち入らないでくださいね」とお願いしているのに。女性ダイバーの涙まで映した時点で、完全に日本が悪者になってしまったような気がしました。
 おまけに、日本は他国を買収してIWCでの商業捕鯨賛成の票を勝ち取っているそうですよ。賛成したカリブ海の国々は捕鯨にそれほど関心があるわけではないし、日本が「見返り」として作った漁業関連施設も今ではただの空き家か、あるいは別の目的に使われているようです。
 私自身は特に捕鯨に賛成というわけでもありません。スーパーでもほとんど見かけないし、私が最後にクジラ肉を食べたのは、ン十年前の小学校での給食。捕鯨が意固地になって守るほどの「文化」かといわれると、首を傾げてしまいます。おまけに、クジラやイルカの肉には水銀が蓄積しているというし。積極的に食べたいとも思わないのです。
(でも、目の前にクジラやイルカの肉が調理して出されたら?答えは「食べる」です。手を合わせて「いただきます」と言って食べるでしょう。生き物の命、漁師や調理してくれた人々の苦労その他もろもろひっくるめて「いただく」のです。)
 牛や豚を食べるのは可哀想じゃないのか? という誰もが抱くであろう疑問に、映画は一切答えていません。その代わりに水銀問題。可哀想な日本人に教えてやってるんだぜ! と言わんばかり。うまく問題をすり替えたつもりなのでしょうか。
 オバリー氏が本気で太地町のイルカ漁をやめさせたいのであれば、その答えは自らが映画の中で語っていると思います。漁師たちは世界各地の「イルカショー」用のイルカを選別して「輸出」し、選ばれなかったイルカを食肉にしているそうです。ならば、その「ショー用のイルカ」の需要を断てばどうか? ショー用に生きたイルカを売る方が、食肉にして売るよりもずっと高く売れるのです。需要があるから、供給がある。
 イルカショーは残酷だ! イルカを飼育すること自体が彼らにストレスを与えて、死に至らしめるのだ! とオバリー氏自らがそう語っているのです。何故彼は世界中にそのことを訴えないのでしょう? 世界中の水族館からイルカショーをなくすよりも、クレイジー・ジャパンの小さな町のイルカ殺しを叩く方が、年老いたオバリー氏にとってはずっと楽だから……。私にはそう思えてなりません。
 悪戯に漁師たちの誇りを傷つけ、それでも「日本を批判するつもりはない。私は日本が大好きなんだ」というオバリー氏。本当に満足ですか?