パフューム-ある人殺しの物語-

 見てきました! 
 匂いをどうやって映像で表現するのか、主人公のグルヌイユはどんな風に描かれるのかと興味津々で観賞しました。結論を先に述べますと、原作既読の私としては満足のいく作品でした。
 原作の細かいエピソードの削除や変更が多少見られましたが、これは許容範囲内だったと思います。
(ネタバレあり)

 悪臭漂うパリの町や、美しい花々の咲き誇るグラースが、細部にわたってカメラに映し出されて、グルヌイユの嗅覚を疑似体験させてくれました。人物のアップ画像は、子供の産毛の一本一本まではっきり見えるほどくっきりしていて、さながらミクロの探検のよう。
 パリの街は本当に臭そうだし(撮影の時も本当に臭かったらしいです)、蛆虫とかゲ●を吐く人の画像には本当にオエーッとなりかけました(笑)。

 原作のグルヌイユはどこか超然としていて人間を見下しているような印象を受けましたが、映画のグルヌイユには少し人間味が加わっています。
 究極の香水を作るための「原料」である少女たちを追い回す彼はもろにストーカー。どこに隠れても彼の嗅覚から逃れることはできないのですから、こんなに怖い存在もありませんね。変態は変態なのですが、名も知らぬ赤毛の少女を誤って殺めてしまった時の、ほんのわずかな香りでも残らずかき集めようとする彼の仕草にどこか切なさも感じられました。

 少女の連続殺人に怯えるグラースの町の人々のために、司祭が姿の見えぬ殺人鬼を「破門」しているシーンの裏側で、グルヌイユは一人黙々と作業を続けています。その姿は恐ろしい殺人鬼と言うよりは、研究熱心な科学者か敬虔な修行僧に見え、パニックに陥った人々と対比が可笑しい。

 ただひたすらに「香り」を求める彼のコンプレックスは、自分の体臭がないこと。それはすなわち、人々に自分の存在を認めてもらえないことであり、異性から恋愛の対象として見られないことでもあります。
 最終的に彼は目的を果たし、自ら作り出した香りで人々を夢中にさせます。でも皆は香りにひかれているのであって、誰も彼自身を見てくれない。
 処刑場で人心を操ったグルヌイユはほんの一瞬「してやったぜ」と笑うけれど、次第に孤独感を募らせていく。グルヌイユ役のベン・ウィショーのこのシーンの演技には心をつかまれました。

 あと、エキストラの皆さんの演技も素晴らしい。クライマックスのあのシーン、香りはCGで表現するのかなと思っていましたが、群集の表情や仕草で全てが表現されていました。皆、ダンサーや俳優さんたちだそうです。道理で上手いわけだ。

 この物語は泣けるとか、謎がとけてスカッとするという普通の映画とは違います。なんと表現していいのかわからないけれど、何故か強くひきつけられる、とても不思議な映画ですね。

 香りが目に見えず、手にも取れないものであるのにもかかわらず、人々に強い印象を与えるのと同じように。