墨攻

 レディースデイに見に行ってきました! 若い女性ばかりでなく、会社帰りと思われるオジサマの姿もちらほら見られましたよ。
 映画のコピーが「10万人の敵にたった一人で挑む。」だったのですが、もちろん一人で戦争ができるはずがありませんし、城さえ落ちなければ戦争が終わるという簡単なものではありません。そもそも、墨家という集団そのものが、平和を説きながらも実は戦闘のプロであるという矛盾を抱えているのです。

(以下ネタバレ)


 で、実際、主人公の革離はどう戦ったのかというと――敵を矢衾にするわ硫黄の粉はぶっ掛けるわ石を落とすわ火責めにするわで、やってることはひたすら殺戮です。城を守り、敵を撃退するという彼の思想は立派でした。しかし、戦闘の勝利は味方の闘争心に火をつけ、人の心の奥底に眠っていた残虐さを目覚めさせてしまい、戦場は目も当てられない状態になってしまいます。自分のやっていることは本当に正しいのかと苦悩する革離。騎馬隊の女隊長である逸悦に思いを寄せられますが、思い悩む彼は彼女の気持ちを拒んでしまいます。戦闘に勝利するカタルシスを描きつつ、敵味方共に多くの犠牲を出すことは本当に正しいのか? と疑問を投げかけているのが印象的な映画です。

 敵の巷将軍がまた男気溢れる人で、敵でなければ革離といい友人になれたかもしれないと思わせる魅力的な人でした。その部下の微将軍もまた立派な人なんだろうな。巷将軍が城に残ると聞いて「自分も残るから、皆は撤退しろ!」と命じたのにもかかわらず、部下たちは暴れる彼をふんじばって撤退したのだもの。

 反対に、革離が一生懸命守ろうとした梁の国王がいやな人で、胸を張って誇り高く死のうとする巷将軍にニターっと笑いかけるんですよ。その笑顔が実にいやらしい。革離を利用するだけ利用して、彼の人気が高くなったら「謀反をたくらんでるんだろ」と追い出し、彼を慕う者達まで極刑に処したりする。
「言うこと聞かなきゃ殺すぞ」と脅さないと誰もついてこないような人は、もう王ではないのだと思います。立派な思想も、良い為政者の存在あってこそでは?

 逸悦は原作に登場しないキャラだそうですが、彼女とのエピソードは朴念仁っぽい革離に人間味を与えたように思います。最後はもうひたすら悲惨で……(涙)。
 城の中で逸悦を探して走り回る革離に「革離ーっ! そこ、そこだってばー!」と心の中で叫んでいました。

 戦争はいつの時代でも繰り返されてしまうのですよね。本当の平和って、どうしたら築けるなぁのかなぁとかなり複雑な思いで映画館を後にしました。