香水―ある人殺しの物語
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小説の表現は文章の一つ一つがとても短い。それが数多く綴られることによって匂いがどういうものであるかが淡々と表現されています。色々な糸を使って美しい絨毯を織り上げるように、細かい表現を幾重にも重ねることによって、複雑な匂いを構成しているのです。これがどのように映像化されるのか、とても興味があります。
ただ、文化の違いから来るものなのでしょうか、日本人の私には「香りにはそんなに力があるのか?」と首を傾げざるを得ない場面も多々ありました。これは、あまたの匂いの中で独特な匂いを作り上げて自己主張するヨーロッパの文化と違い、「抗菌・消臭」を歌い上げる商品を買い求め、できるだけ自分の体臭を消し去ろうとする(仮に香りを身につけるにしても、ほのかに香ることをよしとしている)日本人との違いからくる違和感なのかもしれません。
究極の香水を作るために、極端な行動に走ってしまう主人公は「愛を知らない、知ろうともしない」と表現されていますが、彼のような人間は現代社会にも割りといるのではないでしょうか。私は彼に共感できませんが、「こういう人間もいるかもしれないな」という気はしました。彼は愛に満たされることはなかったけれど、それなりに幸せを感じていなくもなかったかもしれない。彼の行いは決して許されるものではなかったけれど。
「匂い」を「個性」と置き換えるとまた違った味わいがある、というレビューを拝見したことがあります。自己の体臭をまったく持たない主人公がもし、「自分自身の香り」を持っていたら、悲劇は起きなかったのでしょうか。
なんにせよ、映画公開が待ち遠しい作品です。