「フジ子・ヘミングの軌跡」

 本屋さんで著書を目にしたせいか、始めは見るつもりがなかったドラマ「フジ子・ヘミングの軌跡」を見ていた。
 いやー、泣けましたよ。こういうドラマは絶対泣くって分かってるから、見たくないんだけど、冒頭でのご本人の演奏に惹かれて、つい見てしまいました。

 どんなに才能があっても、後ろ盾がない=お金がないってのは本当に大変なんだなぁ。お金持ちの子じゃないとプロの音楽家としてやっていくのは難しいかも。
 月並みな表現で申し訳ないけれど、彼女のたどる過酷な運命には涙せずにはいられなかった。
 それでも、彼女にはピアノのない人生なんて考えられない。貧乏でも、耳が聞こえなくなっても、ピアノを弾かない人生なんて考えられない。その思いが彼女を突き動かしていた。
 このドラマでは、最期まで絶対に彼女を認めてくれなかった、母親との葛藤も描かれていて、ちょっと胸に来るものがあった。

 彼女は年をとってからやっとプロとして世に出た。ラストでご本人が奏でる「ラ・カンパネラ」は、一つ一つの音が聞く人の心にずんと響いてくるようだった。
 聞かずにはいられない、魂の音色。
 目を閉じてそれを聞きながら、彼女の才能に嫉妬していたのは、周囲の人間でも、恩師である母でもなくて、彼女にピアノの才能を与えた神様自身だったのかもしれないなって思った。

 私もピアノを習っていたけれど、ここまでにはならない。私にとって、「これだけは取り上げられたくない」というのはやはり「書くこと」なのかな。
 どうか、これからも、人の心に届く作品を書いていけますように。